臨床工学技士の仕事内容
まずは臨床工学技士さんの役割について知ろう
医療技術の進歩に伴って、医療機器も高度化し病気の診断や早期発見や正確な治療が行えるようになってきました。そんな、病院内にあるさまざまな医療機器に対応しているのが「医療機器のスペシャリスト」と呼ばれる私たち臨床工学技士です。
病院内にある医療機器をいつでも安全に使用できるように保守管理・点検を行うほか、人工呼吸器や人工透析装置、人工心肺装置などの生命維持管理装置の操作も行っています。病気のなり始めの「急性期」から、長期にわたる治療が必要な「慢性期」までの幅広い疾患に対応するとてもやりがいのある仕事です。
病院や透析クリニックなどの医療機関で働くのが一般的
現在の医療はチーム医療で成り立っており、それぞれの専門家が力を発揮することで治療が円滑に進んでいきます。臨床工学技士は日ごろから医療機器をメンテナンスし、正しく操作することでチーム医療に貢献しています。また最近では、国全体で在宅医療の取り組みを強化しており、自宅で透析を行う患者さんのサポートも臨床工学技士が行っています。
病院での配属先
病院の種別
総合病院は地域医療を担う病院で急性期からリハビリまで幅広く対応しています。また、近隣の介護事業所との連携も深くチーム医療をより意識し地域医療に近い病院です。
大学病院も総合病院のように多くの診療科に加え「教育・臨床・研究」の3つの機能があり、先進医療や臨床研究にも力を入れている病院です。
臨床工学技士として多くの経験を積むうえで総合病院・大学病院どちらのもそれぞれのメリットがありますが、学会などでの研究発表や最先端の治療法や医療機器に触れたいと考える場合には大学病院を選択するとよいでしょう。
配属先
- 診療科
- 人工心肺業務に従事する場合には心臓血管外科、心臓カテーテル業務やペースメーカー業務、不整脈治療などの業務は循環器内科の管轄です。また、内視鏡を扱う場合には、消化器内科、整形外科や消化器外科、血液浄化は腎臓内科などの管轄になります。
- 透析室
- 血液浄化業務に従事する場合は透析室に勤務します。病院によって1クール、2クールなどの違いはありますが、患者さんの穿刺までに回路の組み立てとプライミング、必要な薬剤の準備をしておきます。治療開始から終了まではクリニックとの大きな差はありません。
- 手術室
- 手術室業務は診療科に関わらず使用される医療機器のトラブル対応と早朝の手術前の麻酔器の始業点検、使用される医療機器の設置などを行います。人工心肺装置や補助循環、ペースメーカーの埋め込み、内視鏡の操作などの場合には実際に手術に立ち会います。
- 高気圧治療室
- 高気圧酸素療法は多くの疾患の治療に対して行われます。高気圧酸素治療装置には患者さん1人のみが入る第1種と、複数の患者さんと臨床工学技士が一緒に入る第2種がありますが治療時間自体は長くはないため、他の業務と兼業で行うことが多いです。
- ICU(集中治療室)
- ICUは急性期疾患の重症度の高い患者さんに24時間体制で治療を行います。臨床工学技士は生命維持管理操作の操作と稼働中の点検を行います。医師、看護師、コメディカルのチーム医療を大切にしており、何かあった際には当直やオンコールで対応します。
一日のスケジュール
基本的に始業時に臨床工学技士でカンファレンスを行いその日の手術・透析・カテ・機器の修理状況などの報告事項を行い全員で予定を共有します。その後各持ち場に移動し終業時刻まで勤務します。
8:30 ~ 9:00 |
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9:00 ~ 12:00 |
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12:00 ~ 13:00 |
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14:00 ~ 17:00 |
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17:30 ~ 18:00 |
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透析クリニック
透析クリニックは慢性腎不全などの腎機能が低下した患者さんに対して、血液透析を行う専門のクリニックです。血液透析の他に、腹膜透析や在宅血液透析などの在宅医療に対応したクリニックもあります。
透析患者さんは月・水・金(あるいは火・木・土)の週3回4時間の透析を受けなければならず、日中の仕事は難しいと言われています。透析患者さんの中には40代などの比較的若い世代の患者さんもおり、社会復帰についてこれまで多くの課題となっていました。
透析クリニックの中にはこうした問題を解決するために夜間透析(準夜透析)に対応し、日中は仕事をしている患者さんが、仕事が終わった後に透析を行える環境を提供しているクリニックがあります。
臨床工学技士の1日のスケジュールは病院と変わりはありませんが、クリニックの病床数が多いことで、臨床工学技士一人につき複数名の患者さんを受け持ち担当していくことになります。
また在宅医療を行っているクリニックの場合には、腹膜透析や在宅での血液透析の際に、臨床工学技士が患者さんへの回路の組み立てやプライミングの指導などを行い、実際に自宅に訪問して問題なく在宅透析が行えるようにサポートしていきます。
就業時間や休日休暇
病院勤務
病院勤務の場合は就業時間が8時間、休憩時間が1時間、休日休暇は週休2日の場合が多いです。オンコールや当直などの当番がある場合には休日でも出勤する可能性がありますが、祝日、GW、お盆(夏季休暇)、年末年始は暦通りの休みになります。
年休の日数は勤続年数によってばらつきがあり、年休の取得のしやすさも所属する業務によって変わってきますが、大型連休でまとまった休みが取れるため、休日休暇は比較的多いのが特徴です。
透析クリニック
透析クリニック勤務の場合、フル勤務の場合は就業時間が8時間、休憩時間が1時間、休日休暇は週休2日の施設が多いです。
ただ、夜間透析など行っているクリニックの場合、1日10時間労働のところもあります。その場合は週休3日となる施設が多い為、ご希望によっては短期集中で週4日勤務して、休暇を充実させたいという方もいらっしゃいます。
オンコールや当直などの当番がないため、残業時間が終われば呼び出しの心配はありません。勤務表はシフト制であることが多く、日曜は固定の休みで残りはシフト希望や早出、準夜などを考慮して決定されます。祝日、GW、お盆(夏季休暇)、年末年始は中もシフトによっては連休が短くなる場合もありますので、休暇は病院に比べると少ないです。
動画でも解説!
緊迫の救命救急の現場で活躍できる
常に緊張感が漂う救命救急センターの現場は大変なことも多いですが、その分やりがいも多くあります!仕事内容や役割、醍醐味をご紹介します!
救急救命について
救急救命と聞くと皆さんはどのようなイメージを持ちますか?
医療機器がたくさん置いてあって、電子音が鳴っているイメージ?それとも重篤な患者さんがいて、医師や看護師がたくさん働いているイメージでしょうか?心臓マッサージをしているところを想像する方もおられるかもしれません。
救命救急は急性期の疾患や外傷、中毒症状のある患者さんに対して緊急に治療を開始する必要がある場合に行う医療対応のことを言います。
例えば、呼吸が止まっている患者さんや心停止をしている患者さん、ひどいケガをしている患者さんなどにすぐに治療行為を開始し、適切な処置を行うことが救命救急の大きな目的の1つです。
救命救急センターでの役割
救急救命センターは診療科に関わらず、さまざまな患者さんが運び込まれます。重症患者である場合には、集中治療室で24時間体制での受け入れを行っており臨床工学技士もこのICU(集中治療室)をメインに救命救急センターに従事しています。
臨床工学技士の救命センターでの役割は、人工呼吸器の操作をはじめ、PCPS(経皮的心肺補助)やIABP(大動脈内バルーンパンピング)といった補助循環装置やECMO(体外式膜型人工肺)、血液浄化などの生命維持管理装置の操作や点検を行います。
これらの生命維持管理装置は治療中の患者さんの肺や心臓の代わりになる機器で、とても大事な役割を果たしますが正しい知識を持っておかないと扱うことができない難しい医療機器です。
このような場合でも、正しい知識を持った臨床工学技士が操作することでトラブルなく治療を進めることができるのです。
救急救命の醍醐味
臨床工学技士として救急救命に携わる上での醍醐味はPCPSやECMO、人工呼吸器などの生命維持管理装置を患者さんから外す瞬間にあるのではないかと思います。日々勤務する中で、患者さんに生命維持管理装置を取り付ける瞬間はとても緊張し集中力もかなり使います。
もちろん問題なく取り付けることができその後無事に稼働し患者さんの容態が快方に向かっていくのがうれしいですが、容態が良くなった患者さんの体から機器を取り外し、ご自身の臓器が回復して働いている瞬間を見たときの嬉しさは格別です。
何よりも患者の回復に自分が操作していた機器が役に立つというのは医療従事者でないと中々できない経験です。救命救急はとても忙しいと言われますが、その分患者さんが一般病棟に転棟される、患者さんやご家族さんから“ありがとう”の言葉をかけていただけると明日もまた頑張ろうと思えるのです。
DMAT(災害派遣医療チーム)の隊員として、災害発生時に力を発揮
テレビドラマやマンガにもなったDMATですが臨床工学技士はどのように関与しているのでしょうか?
DMATについて
DMAT(災害派遣医療チーム)は医師・看護師・その他コメディカルなどで構成され、養成研修を受講し認定を受けた医療従事者が、大規模災害や大事故などの災害発生時に消防や警察、自衛隊などと連携を取りながら救助活動と並行して医療活動を行います。
DMATは専門的な訓練を受けた医療チームで、災害発生時に速やかに被災地域に駆けつけることで被災地域での緊急治療や搬送先の病院の支援を行い、災害による死亡やケガの後遺症の減少を目的としています。
また、持病があり定期的な服薬や治療が必要な患者さんが災害によって被災地域に留まっている場合にもその場での処置、あるいは搬送病院への移送を行い病態の悪化を防ぐなどの取り組みをしています。
災害現場での工学技士の役割
臨床工学技士はDMATの中で業務調整員として活動します。被災現場に同行し使用する医療機器の操作や稼働中の定期的な点検を行うほか状況に応じて、臨機応変に状況に対応します。
東日本大震災や熊本震災では病院が被災したことで、透析を行うことができなくなってしまった患者さんの透析の受け入れや、不足している医療機器の貸し出しなどを行いました。
また被災場所にドクターヘリを使っていく際には、あらかじめ必要物品はそろっているか、医療機器に不具合はないかを確認します。現在病院で使用されている医療機器は、バッテリーで駆動するものと、コンセントに接続して使用するものがあります。
臨床工学技士はこうした災害時に備えて、停電した時でも使用できるコンセントの非常電源へ、接続しておくべき機器の説明やトラブル時の対応などを、院内研修会を開き看護師や医師、コメディカルに指導していく役目も担っています。
臨床経験を活かして企業で働く人もいる
将来は家庭とうまく両立しながら働きたいと考えたとき夜勤や当直はちょっとしんどいですよね?臨床工学技士の資格があれば臨床の現場を離れても他の業界でしっかりと働くことができるんです!
医療機器メーカー
医療機器メーカーは医療現場で使用される医療機器を扱っている企業です。臨床工学技士は実際に臨床で機器を扱っており経験が豊富なことから、医療機器を導入する病院やクリニックでの営業支援が主な仕事となります。
医療機器がどういった機器でどのような症例に対して使われるのか、操作方法やトラブル時の対応方法などの説明を行いますので臨床の現場よりさらに医療機器についての詳しい知識が身につけることができます。
また、院内で導入した医療機器の研修会があれば、看護師や医師、コメディカルを対象に説明を行う、学会の企業ブースの際に学会参加者への説明を行うなど業務があります。
医療機器メーカーへはこれまでの臨床経験を大いに生かして働くことができ、夜勤や当直がなく土日休みになるため変則的な勤務にならず、比較的プライベートの時間を確保しやすいお仕事です。
ただ、企業によっては出張が多くなります。1週間程度の長期の宿泊を伴う出張の可能性もあるので、出張はつきものである、という認識は必要です。
治験業界
臨床工学技士の資格を活かして働くことができる仕事の1つに治験業界があります。臨床工学技士はCRC(治験コーディネーター)として治験を行う患者さんに接していくことになります。
「治験」とは厚生労働省から薬として承認を受けるためにヒトで行う臨床試験のことをいいます。治験は定められた要件を満たした病院で行われ薬の有効性や安全性を確認します。
CRCは、看護師や薬剤師などの医療従事者が病院と企業間の連絡や予定の調整、患者さんへの治験内容の説明、患者さんの相談に乗るなどの心のサポート、治験データの管理、治験スタッフのチームの調整などを行います。
臨床工学技士は、臨床の現場でカルテや血液データなどの判読をすることができ、血液浄化業務やペースメーカー業務の外来などで患者さんと接する機会も多く、患者さんの対応になれています。治験の際のデータ管理や、患者さんへの対応がしっかりと出来る人であれば、これまでの経験を活かして働くことのできるやりがいのある仕事です。
またCRCの仕事も夜勤や当直がないためプライベートの時間をしっかりと作れるのが魅力の一つですね。。
まとめ
今回は臨床工学技士の仕事内容についてご紹介しました。メジャーになりつつある臨床工学技士の仕事ですが具体的な仕事内容や配属先についてよく知らない方も多いのではないでしょうか?今回の記事をきっかけに多くの方に興味を持っていただけると幸いです。今回のポイントはコチラ!
- 医療機器のスペシャリストとして活躍するフィールドは幅広い
- ライフワークバランスに合わせて病院とクリニックの選択をしよう
- 臨床経験を活かして他の業界でも活躍できる!
さまざまな業務に従事することができる臨床工学技士の仕事は、ご自身のライフワークバランスに合わせて選択することができます。臨床の場から離れても活躍できる業界はたくさんありますので自分に合った選択をすることが大切です!